まず昨春開催した、私が2013年FCIオビディエンスチャンピオン/ミリアム・ソンダーガード氏セミナー時のエピソードを紹介したいと思う。
2日間のセミナーは、各参加者の競技項目実技をミリアム氏が個別指導を行う形で行われた。
彼女の冷静で的確な指導とわかりやすい説明、卓越した訓練方法で、非常にありがたいことに大好評をいただき、主催者としても一競技者としても、ミリアム氏の素晴らしい指導力に心から感動したものとなった。

右からオビディエンス小委員会委員長・佐藤委子氏、中央/ミリアム・ソンダーガード氏、左・ドッグ大好きクラブ・林千景

ミリアム氏のトレーニング方針は、とてもシンプルなように感じた。「犬にわかりやすく伝える」「できた時には心から褒める」「わかっているのに、やろうとしないときは注意する」。言葉にすると簡単に見えるが、犬の様子を見ながらハンドラーがタイミングよくこなしていくことは難しい。

私が思うに、日本の犬のトレーニングは2つに今別れているように思う。つまり、「注意や叱責を与えないで出来たときだけ褒めるトレーニング」と「出来たときは褒めて、理解していることをしなかった場合注意(もしくは叱責)するトレーニング」。

前者のトレーニングしか受けていない犬に対して、後者のトレーニングをした場合、犬は混乱する。逆もしかりである。

家庭犬の求められるトレーニング・レベルは、正確さより環境に柔軟に対応できる精神的フレキシビリティだが、競技犬は環境に左右されない集中ある正確さを求められる競技が多い(そうでない競技もある)。本質的に違う部分がある。

犬はヒトの言葉をすべて理解することはできない。その代わり、その場の雰囲気やハンドラーのちょっとした仕草の違いや感情に、人間より敏感に察知する。今までやっていたルールが変わると、ヒト以上に犬は精神的影響が大きい。トレーニング方針が違うと、仮に優れたトレーニング方法であっても思ったような結果が出ない。

「正確さ」を要求されるトレーニングの場合、犬を注意せず「正確に出来る瞬間を気長に待つトレーニング」方式を取ってしまうと、それまでの紆余曲折が逆に犬のやる気をそぐようになる。難しいムーブが目標であればあるほど、行程は果てしなく長くなり犬が迷う。

この場合、「正確」にムーブするよう指示する「注意(または叱責)行為」は言ってみれば、オヤツ等でムーブを誘導するルアーリング・トレーニングに似て、目標地点に早く到達するための犬に対する精神的ルアーリングでもある。

どちらの方式を取るにしても、ハンドラーも自分が定めたトレーニング方針に忠実になる必要がある。

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